映画『籠の中の乙女』に行ってきました。

ヨルゴス・ランティモスというギリシャの監督作品を日本で目にするのはめずらしい。それだけでなく、タイトルから連想できるような「庇護された環境からの自立」を、通り一遍のものにしていなくて、はっとさせられる。これは、必見の1本ですよ。

舞台は、郊外にある、見るからに富裕な家族の邸宅だ。プールがあって、「広大な」と言っていいような庭がある。そこで、家族を守るためにはいくら強権をふるっても構わないと考える父親のもと、外界からの情報や常識、一般教育など「ごく平凡に暮らすための一切」を遮断された子どもたちが、どう育つかを淡々と見せてくれる。

なにせ、何一つふつうに育てられていない。塀の外は命の危険がある恐ろしい世界なのだと言い聞かされて育った兄妹は、物語の後半になるまで、子どもは電話(ケータイ電話ではなく、固定電話)やビデオ(DVDではなく、ホントにビデオテープ)の存在さえ知らない。言葉さえ、勝手に刷り込まれている。“海”は革張りのアームチェアのことだし、“ゾンビ”は黄色い小さな花のことだ。
長男はある日、庭で黄色い小さな花を見つけて、「ママ、ゾンビだ! 摘んでいこうか?」と言う。

たぶん、設定はハイティーンの三兄妹(長男、長女、次女)なんだろうけど、
実はもっと年齢がいってそうな感じを受ける。そこがとても怖い。
こんな年齢まで親の決めた歪んだ世界で生きてきた兄妹の極度に無垢なさまに、
滑稽さを感じながら、心の底ではぞくりとせずにはいられないのだ。
兄妹と父母までもが真似る犬の吠声、唯一の外界からの来客(来訪理由は恐るべきもの)からの誘惑、娘たちが踊る奇妙なダンス、すべてが納得できるからよけいに。

父母は、実はふつうにセックスしたりしている。夫婦だから当たり前、と思うなかれ。両親は、兄には性の相手を世話し、妹たちには徹底的に性を寄せ付けないようにする。そんな中で、黙々とセックスに励む親たちの醜さといったら。ああ、怖気立つってこういうことか、と観ながら感じずにはいられなかった。

原題は「dogtooth(犬歯)」というらしい。これが何を意味するかは、観るとすぐわかるが、犬歯を長女が○○して一気にエンディングへ向かうとき、哀れでもあり滑稽でもあり悲劇的でもありと、とても複雑な思いに沈むことになる。

早くしないと、終わっちゃうよ!
キーワードは、家族、教育、自立。 オススメ度:☆☆☆☆☆
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